「戦場からの電話」(山野浩一)

もしかしたら、すでにこのような戦闘が

「戦場からの電話」(山野浩一)
(「あしたは戦争」)ちくま文庫

「あしたは戦争」ちくま文庫

見知らぬ者からかかってきた
救助要請の電話に
「私」は困惑する。
「私」の自宅のすぐ近くで
ゲリラ戦が
行われているのだという。
東京、いや日本のどこでも
戦争などは起きていないはずだ。
私はKと名乗った電話の人物を
捜してみるが…。

ちくま文庫刊
「巨匠たちの想像力」シリーズの第1巻、
「あしたは戦争」に収録されている、
わずか2頁半程度の
ショートショートSF作品です。
短いながらも破壊力抜群です。

〔登場人物〕
K
…政府軍に攻撃され、
 救助要請の電話を発したゲリラ兵。
 第十二解放戦線第三遊撃隊所属。
「私」
…語り手。Kからの救助要請の電話を
 受け取る。Kなる人物を捜索する。

本作品の味わいどころ①
何が起きている?現実離れした世界

文章のほとんどが、
「私」とKの電話でのやりとりです。
ところが、
あまりにも世界が異なるのです。
「私」は1985年の平和な日本の
東京杉並区の
自宅で過ごしているのですが、
Kはどうやら戦闘、
それも相手は政府軍ですから、
ゲリラ戦を行っている
兵士ということになるのです。

読み手はここで、
展開を予想しようとして、
無意識のうちに
いろいろな想像を働かせてしまいます。
同じ東京杉並区、同じ1985年、
だとすればこれはパラレルワールドか?
よくある異世界からの交信に感応し、
そちらの世界へと
紛れ込んでしまうのか?
しかし決してそうではありません。

本作品の味わいどころ②
ドローン?サイバー?近未来の内戦

さらに文章から読み取ろうとすると、
いくつもの近未来の情景が
浮かんできます。
なぜKは「私」に
コンタクトを取ってきたのか?
Kは「この回路だけが
通じている」のだと言います。
どうやら電話でありながら、
電話回線ではなさそうです。
現代のネット回線に近いものが
イメージされます。
続く「戦場では電波があまりにも複雑に
飛び交って」いるというのですから、
戦闘は銃撃戦などではなく、
サイバー空間内で行われているものと
思われます。

さらにKは、
「窓の外には政府軍のゲリラ探知器が
飛びまわって」いると告げます。
それはもしかして
現代のドローンなのでしょうか。
言葉の端々を拾い集めると、
そこからは超近代的なサイバー戦が
勃発しているように受け止められます。

本作品の味わいどころ③
予想できぬ急展開、驚天動地の結末

見開きでの2頁は、
「私」がKなる人物を訪問することを
決意して終わります。
頁をめくっての最後の五行が圧巻です。
「私」は自らの住む東京で、
実際にゲリラ戦が起きていたことを
知るのです。
そして「私」の取った、
衝撃的な行動とは?
ぜひ読んで確かめてください。

今日のオススメ!

もしかしたら、現代において
すでにこのような戦闘が
始まっているのではないか?
そんな予感さえ沸き起こってきます。
本作品は1976年発表、
したがって本作品の舞台1985年は、
執筆当時からすると
10年ほど未来の日本です。
しかし、それから40年近く経過した
2023年の現代の方がより一層、
本作品の描く世界が現実味を
帯びてきているように思えます。

本作品の文字数よりも、
当サイトのこの頁の字数の方が
多いかも知れません。
本作品はそれだけ
コンパクトでありながら、
その衝撃力は
非常に大きなものがあるのです。
ぜひご一読ください。

〔山野浩一の作品について〕
作者・山野浩一
SF作品を書いていたのは
1964年から1970年代にかけてです。
そのため決してSFの作品数は
多くはありません。
長篇作品一作と短編集が数点のみです。
長編は「花と機械とゲシタルト」で、
2022年に単行本が復刊しています。

created by Rinker
¥3,080 (2024/06/19 04:50:20時点 Amazon調べ-詳細)
こちらもオススメ!

短編集は過去4冊刊行されていますが、
2011年にはそれらを再編集したものが
2冊登場しています。
創元SF文庫からの
「鳥はいまどこを飛ぶか」と
「殺人者の空」です。

さらに、この2冊から
収録漏れとなった作品や
単行本未収録作品を集めた作品集
「いかに終わるか:山野浩一発掘小説集」も
2022年に刊行されています。

〔「巨匠たちの想像力・あしたは戦争」〕
召集令状 小松左京
戦場からの電話 山野浩一
東海道戦争 筒井康隆
悪魔の開幕 手塚治虫
地球要塞 海野十三
芋虫 江戸川乱歩
最終戦争 今日泊亜蘭
名古屋城が燃えた日 辻真先
ポンラップ群島の平和 荒巻義雄
ああ祖国よ 星新一
解説:斎藤美奈子

(2023.11.16)

Terry DowningによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥935 (2024/06/18 08:39:52時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA